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カメラが捉えた事実の断片、監督の問題意識、被写体への想い。さまざまな複雑 性を帯び一つの作品となった映像作品の数々。そんな魅力あふれるドキュメンタリー をジャンルごとに総計100本紹介します。もしかしたら、この中からあなたの人生を 変える、かけがえのない作品を見つけることができるかも。
友寄隆英(ナスD)が選ぶドキュメンタリー作品「原一男」
友寄隆英(ナスD)テレビディレクター
ナスDの愛称で知られるテレビ朝日会社員。YouTubeはチャンネル登録者120万超え。テレビ局員初となる冠番組ナスD大冒険TVが放送中!
期待を超える衝撃の展開
奥崎謙三が真実を暴く
-STORY-
主人公の奥崎謙三が、戦争中に2名の兵士を敵前逃亡の罪で射殺した上官を訪ね歩き、当時の生々しい状況を聞き出していく。

 実は僕、テレビディレクターをやっているのにドキュメンタリーをあんまり観ていないんですよね。ただそんな僕でも唯一、原一男監督の作品は大好きでよく観ていて。『ゆきゆきて、神軍』もその作品の一つです。主人公は奥崎謙三という人物で、彼はかつて起こった部下射殺事件の真相究明に奔走します。原監督の作品って、本当は台本があるんじゃないかと疑ってしまうくらい、衝撃的な起承転結を見せてくれるんですよ。この作品も前半の淡々とした展開とは打って変わり、後半に差し掛かると奥崎は行く先々で人をぶん殴り、最終的に黒幕とされる人物の息子に向かって発砲するんです。こんなの原監督のドキュメンタリーでしか起こり得ない。きっと撮影中、原監督は自分がおもしろいと感じた方向に、展開を変えていってるように思うんです。だから物語がまるで意志を持った生き物みたいに変化していく。それがすごいですよね。物語の途中、奥崎が人を殴り自分で警察を呼ぶシーンがあるのですが、話をより過激な方向へ進めるために、彼自身、奥崎という人物を演じているように見えたんです。実は彼の中にもカメラを向けられている意識があり、その結果、役に入り込み過ぎたのではないか...と気づいたときはもう衝撃的でした。もしかしたら、奥崎謙三という強烈なキャラクターは、この作品が生み出してしまったのかもしれません。

『ゆきゆきて、神軍』
1987年/日本/監督:原一男/疾走プロダクション
やらせか本当か
障がい者の残酷な現実
-STORY-
CP(脳性麻痺)者の急進的な団体「青い芝」。その中で活動する人々の実生活や思想を収めた、原一男監督のデビュー作品。

 健常者の中で生きる、脳性麻痺患者の生活を映したドキュメンタリー。普段私たちが目を背けている現実を、あえて題材に選ぶのも原監督ならではの切り口ですよね。ハンディーカメラで撮影しているから視聴者は監督と同じ目線になるのですが、まるで原監督から、お前らちゃんと見ろよと言われているような気もします。カメラが密着しているのは脳性麻痺患者の横田さん。実は彼の奥さんはこの映画を撮影することに反対なんです。途中怒りのあまり、唇を噛んで出血する奥さんに向かって、子どもが口から血が出てるよと言う場面。そこがめちゃくちゃ演技っぽいんですよ。原監督は以前、ドキュメンタリーにはある種、やらせがつきもので、そのやらせを乗り越えることで真実が見えるとおっしゃっていました。だからこの作品にも、確実にやらせが入っていて、エンディングで横田さんが語った、僕は介護がないと生きていけないんだという救いようもない残酷な言葉こそが真実なのではないのでしょうか。この作品は、原監督が考えるドキュメンタリーの本質を体現しているのです。物語が終わる頃には、横田さんがまるで名俳優のようにも見えてきますよ。原監督の作品に有名俳優が登場することはありませんが、観終わったあとに必ず、この作品でいう横田さんのような等身大のスターが産まれるというのも、原監督作品の魅力ですね。

『さようならCP』1974年/日本/監督:原一男/日活
昔の恋人の出産シーン
未知の映像に原監督が挑む
-STORY-
CP(脳性麻痺)者の急進的な団体「青い芝」。その中で活動する人々の実生活や思想を収めた、原一男監督のデビュー作品。

 原監督が元カノである武田美由紀さんから、手紙を受け取るところから話が始まります。原監督と武田さんの間には子どもがいたのですか、武田さんはその子どもを連れて沖縄に移住するんです。さらに、沖縄で別の男性と関係を持ち妊娠。その出産を撮ってほしいと、彼女は原監督に手紙を出したんです。メインはなんといっても、武田さんの出産シーン。いろいろな体勢で出産を試みるのですが、なかなか赤ちゃんが出てこない。最終的に武田さんが決めた体勢が、よりにもよってその角度ですかという視聴者にとって逃げ場のない画角で出産します。男性にとって出産シーンは、身構えてしまうもの。途中からピンがボケているのですが、武田さんの出産シーンを無事観終わってホっとしていたら、今度は原監督の今の奥さんである小林佐智子さんの出産シーンが始まるんです。しかも、こっちはピンがちゃんと合っているっていう...。武田さんは作中、かなり破天荒な人物として描かれていますが、出産を終えたあとは、母親の顔になっているんです。これは僕の想像ですが、原監督は本当はそこを見せたかったんじゃないかと。出産の映像は、流産してしまったときの責任が取れないから、テレビ的にも撮影はタブー。この作品では、そんな誰も撮れない映像を撮ろうという原監督の挑戦と、原監督作品らしい衝撃的な映像の両方が表現されているんです

『極私的エロス・恋歌1974』
1974年/日本/監督:原一男/疾走プロダクション
続きは本誌で!
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