GRAFFITI CONTENTS
カメラが捉えた事実の断片、監督の問題意識、被写体への想い。さまざまな複雑 性を帯び一つの作品となった映像作品の数々。そんな魅力あふれるドキュメンタリー をジャンルごとに総計100本紹介します。もしかしたら、この中からあなたの人生を 変える、かけがえのない作品を見つけることができるかも。
ダースレイダー が選ぶドキュメンタリー作品「戦争」
ダースレイダー(46)ラッパー
東大中退後、ラッパーとして活動。2010年に脳梗塞で倒れ、合併症で左目を失明するも眼帯をトレードマークに復帰。さまざまな分野で活躍中。
遠い国で起きた戦争を
伝えることの意味を考える
-STORY-
海外メディアも報じなかったイスラム国によるシリア内戦を、市民ジャーナリスト集団RBSSがスマホを武器にSNSに投稿をする。

 日本ではジャーナリストが紛争地域で拘束されると、バッシングが多いように感じています。「禁止区域に行く方が悪い!自業自得」などと、自己責任として一括りにされてしまうのが現状だと思います。しかし、みなさんが危険地帯であるという事実を周知しているのは、ジャーナリストがその場所で取材をし、発信しているからではないでしょうか。この作品からその“ジャーナリズム”というもの必要性を考えさせられる作品になるはずです。
 シリア北部にある美しい街、ラッカはイスラム国(以下IS)を含む多面的な内戦の爆撃により、廃墟と化してしまいました。さらにISは自分たちに不利な情報を隠し、有利な情報のみをプロパガンダとして他国に配信。悲惨な内戦の実態が、雲に隠れてしまうのを止めるため、市民はジャーナリスト集団を結成して撮影を始めるのです。路上に並んだ死体、拘束される人々、処刑される仲間や家族の様子をスマホで撮り続けていきます。ISに見つかれば問答無用で殺されてしまうということを覚悟の上で、撮影し続ける彼らの姿を見れば、自己責任という言葉は出てこないのではないのでしょうか。日本社会では、危険地帯から命がけで情報を伝えるジャーナリストの価値が全く理解されていません。この作品を通じて、みなさんが世の中から受け取る情報の重要性を感じることを願っています。

​​​​​​​『ラッカは静かに虐殺されている』
2017年/アメリカ/監督:マシュー・ハイネマン/アップリンク
敗戦するまでの4か月間
沖縄戦で起きた秘密戦の実態
-STORY-
沖縄戦の最も深い闇、少年ゲリラ兵、戦争マラリア、スパイ虐殺、証言から明かされる陸軍中野学校の秘密戦とは?

 1945年4月1日、沖縄に米軍が上陸し、日本で唯一の地上戦が行われていました。陸軍中野学校出身の青年将校が沖縄に派遣され、現地の若者たちと少年ゲリラ兵部隊を組織し、秘密戦を実行します。この作品は歴史の闇に葬られていた約4か月間に及ぶ沖縄戦の真実を明らかにするというものです。生き残った隊員の証言で語られるのは、冷徹な計算に基づいて日本が行っていた裏の事実。住民をマラリアが蔓延する離島へ強制移住させ、アメリカ側への情報漏洩阻止と題したスパイリストによる住民虐殺が行われます。青年将校らは上官の命令で作戦を実行するしかなかったと語り、人を完全に駒として扱う卑劣な姿勢が伝わってきます。この地上戦では老若男女、多くの住民が虐殺に合い、自決を迫られることもあった。負けることがわかっていた戦争で、子どもたちを犠牲にしてまで何をやろうとしていたのか。そんな日本の愚かな行為から改めて戦争が何も生まないことを感じます。
 同年8月日は、第二次世界大戦の終戦記念日となっています。敗戦確定の中、本土決戦を視野に入れた日本軍により、米軍の戦力を大幅に減らし、本土の食糧確保のため時間稼ぎの捨て石として沖縄は機能しました。この作品を観ると、終戦記念日という言葉に違和感を持ちます。この悲惨な沖縄戦を少年兵と同じ年齢の現代の若者が観て何を感じるのでしょうか。

『沖縄スパイ戦史』
2018年/日本/監督:三上智恵、大矢英代/東風
多角的に戦争を見ると
アメリカがわかってくる
-STORY-
アメリカで起きた9.11同時多発テロ事件。その後のブッシュ政権の対テロ戦争の真実を、マイケル・ムーアがさまざまな角度から暴く。

 マイケル・ムーア監督の視点でユーモラスかつ多角的に、アメリカを紐解ける作品です。2001年9月日にイスラム過激派テロ組織により、アメリカは大規模なテロ攻撃を受けました。この作品の中心人物でもあるジョージ・W・ブッシュ大統領(ブッシュ政権)は制裁の名の下、イラクに対してイギリス、オーストラリアなどと有志連合を結成し、非条理な侵略戦争を強行します。そしてイラク住民、米兵共に多くの戦死者を生みました。これには日本も有志連合の一員として、インフラ等の整備を行っていました。これは日本がイラク戦争に加担していたことを意味します。当時、アメリカ議会議員535人のうち、息子が軍隊に入隊したのはたった一人だけ。つまりこの戦争でイラクの人々を殺した米兵の多くは、軍隊に入るしか生きる道がない貧困層の若者たちだったことも描かれます。
 イラクは大量破壊兵器の所有、9・の首謀である国際テロ組織アルカイダとのつながりをアメリカから疑われていましたが、そんな事実は一切なかった。軍事参加していたイギリスでは、後にブレア政権の参戦は不当だったと独立調査委員会が報告しています。アメリカが日本唯一の同盟国と言うのなら、もう少しアメリカについて知らなければならない。この作品を観ると、今日本で起きている米軍基地問題などを考えるきっかけになると思います。

『華氏911』
2004年/アメリカ/監督:マイケル・ムーア/ヘラルド
続きは本誌で!
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