GRAFFITI CONTENTS
カメラが捉えた事実の断片、監督の問題意識、被写体への想い。さまざまな複雑 性を帯び一つの作品となった映像作品の数々。そんな魅力あふれるドキュメンタリー をジャンルごとに総計100本紹介します。もしかしたら、この中からあなたの人生を 変える、かけがえのない作品を見つけることができるかも。
佐々木敦が選ぶドキュメンタリー作品「フレデリック・ワイズマン作品」

佐々木敦(59)思考家、批評家
音楽レーベルHEADZ主宰。文学ムック『ことばと』の編集長。映画美学校言語表現コース「ことばの学校」主任講師。さまざまな分野で批評活動を行う。
音楽レーベルHEADZ主宰。文学ムック『ことばと』の編集長。映画美学校言語表現コース「ことばの学校」主任講師。さまざまな分野で批評活動を行う。
精神病院をただ「撮った」
ワイズマンのデビュー作
ワイズマンのデビュー作

-STORY-
マサチューセッツ州ブリッジウォーターにある精神障がい犯罪者のための刑務所矯正院の日常を克明に描いたドキュメンタリー。
1967年に撮られたフレデリック・ワイズマンのデビュー作の映画。彼は1930年生まれなので、この時点で歳と遅めのデビューなんですよね。ただ、それ以来彼は同じ技法で映画を撮り続け、今や巨匠といわれるようになった。この作品はフィルムで撮られ、今と比べるともちろんプリミティブなわけだけど、既にワイズマン節が垣間見える。たとえば、ナレーションもテロップもなしに、ただその「場所」を撮り続ける真骨頂のような手法。ある問題の告発や提起をするドキュメンタリーではない異色の撮り方なんですが、この映画も舞台であるアメリカの精神障がい犯罪者の矯正施設を、ただ撮り続けている。彼自身はどのように精神疾患の患者を管理しているのかを中心に、その病棟で起こるさまざまな出来事を客観的に記録しているだけなのですが、我々から観ると非常にショッキングな映像として映るんですよね。
この映画は、許可を取って撮影したにも関わらず、あまりにひどい施設の在り方を告発するような内容として、上映が禁止になってしまった。公開が開始されたのは年代に入ってからで、幻のデビュー作になってしまったわけです。ちなみに、今こうして作品を観てみると、ほかの作品に比べて対象の題材選びなど、実は彼の問題意識がクリアに伝わるのもおもしろい。ワイズマンを知る上では欠かせない映画です
『チチカット・フォーリーズ』
1967年/アメリカ/監督:フレデリック・ワイズマン/コミュニティシネマセンター
マサチューセッツ州ブリッジウォーターにある精神障がい犯罪者のための刑務所矯正院の日常を克明に描いたドキュメンタリー。
1967年に撮られたフレデリック・ワイズマンのデビュー作の映画。彼は1930年生まれなので、この時点で歳と遅めのデビューなんですよね。ただ、それ以来彼は同じ技法で映画を撮り続け、今や巨匠といわれるようになった。この作品はフィルムで撮られ、今と比べるともちろんプリミティブなわけだけど、既にワイズマン節が垣間見える。たとえば、ナレーションもテロップもなしに、ただその「場所」を撮り続ける真骨頂のような手法。ある問題の告発や提起をするドキュメンタリーではない異色の撮り方なんですが、この映画も舞台であるアメリカの精神障がい犯罪者の矯正施設を、ただ撮り続けている。彼自身はどのように精神疾患の患者を管理しているのかを中心に、その病棟で起こるさまざまな出来事を客観的に記録しているだけなのですが、我々から観ると非常にショッキングな映像として映るんですよね。
この映画は、許可を取って撮影したにも関わらず、あまりにひどい施設の在り方を告発するような内容として、上映が禁止になってしまった。公開が開始されたのは年代に入ってからで、幻のデビュー作になってしまったわけです。ちなみに、今こうして作品を観てみると、ほかの作品に比べて対象の題材選びなど、実は彼の問題意識がクリアに伝わるのもおもしろい。ワイズマンを知る上では欠かせない映画です
『チチカット・フォーリーズ』
1967年/アメリカ/監督:フレデリック・ワイズマン/コミュニティシネマセンター
目の見えない少年が歩く
美しいシーンがここにある
美しいシーンがここにある

-STORY-
アラバマ聾盲学校を取材した「DeafandBlindシリーズ」四部作の第一部。視覚障がいの子どもたちの学校での日常を描き出す。
9時間に及ぶ長編の第一部で、視覚障がい者の学校での日常を映しています。ほかのワイズマン作品と同様、組織の中に入り込み、そこでみんなが一体どんな日々を過ごし、何が起きているのかを記録している。実は僕、この作品を一度しか観たことがないんです。だけど、忘れられない素晴らしいシーンがあって。それは校舎の中を、目の見えない少年が壁をたどりながら廊下を歩き、階段を登り、ある部屋に向かう分ほどのワンカット。少年にとっては、毎日やっている当たり前の日常がとても美しい。やっぱり我々は目が見えるから、その姿を見て感動するっていうのは、傲慢なことかもしれない。でも人間が生きているという強さを感じるわけです。ドキュメンタリー映画って、フィクションじゃないから、そこに実在しているものしか撮れない。だからこそ、このワンカットで世界は素晴らしいと感じられる。ワイズマン作品って、こんなふうにときどきすごいシーンがあるんですよね。別にいいシーンを撮ろうと思っているわけじゃなく、偶然に撮れてしまう。その理由の一つは、必ず台のカメラで映画を作るからだと思うんです。カメラマンとたった二人で撮影を行っているから、自然と組織の中に入り込める。そんなワイズマンが捉えた奇跡的な映像をみんなにも観てほしい。僕もチャンスがあったら、もう一度観たいと常々願っています。
『視覚障害』
1986年/アメリカ/監督:フレデリック・ワイズマン/コミュニティシネマセンター
アラバマ聾盲学校を取材した「DeafandBlindシリーズ」四部作の第一部。視覚障がいの子どもたちの学校での日常を描き出す。
9時間に及ぶ長編の第一部で、視覚障がい者の学校での日常を映しています。ほかのワイズマン作品と同様、組織の中に入り込み、そこでみんなが一体どんな日々を過ごし、何が起きているのかを記録している。実は僕、この作品を一度しか観たことがないんです。だけど、忘れられない素晴らしいシーンがあって。それは校舎の中を、目の見えない少年が壁をたどりながら廊下を歩き、階段を登り、ある部屋に向かう分ほどのワンカット。少年にとっては、毎日やっている当たり前の日常がとても美しい。やっぱり我々は目が見えるから、その姿を見て感動するっていうのは、傲慢なことかもしれない。でも人間が生きているという強さを感じるわけです。ドキュメンタリー映画って、フィクションじゃないから、そこに実在しているものしか撮れない。だからこそ、このワンカットで世界は素晴らしいと感じられる。ワイズマン作品って、こんなふうにときどきすごいシーンがあるんですよね。別にいいシーンを撮ろうと思っているわけじゃなく、偶然に撮れてしまう。その理由の一つは、必ず台のカメラで映画を作るからだと思うんです。カメラマンとたった二人で撮影を行っているから、自然と組織の中に入り込める。そんなワイズマンが捉えた奇跡的な映像をみんなにも観てほしい。僕もチャンスがあったら、もう一度観たいと常々願っています。
『視覚障害』
1986年/アメリカ/監督:フレデリック・ワイズマン/コミュニティシネマセンター
DV被害者が物語る
人間共通の痛ましさ
人間共通の痛ましさ

-STORY-
アメリカのフロリダ州にある家庭内暴力被害者保護施設が舞台となった本作。なぜ家族がお互いを傷つけ、暴力を許してしまうのか...。
この作品は実は連作で、『DV』は、DVの被害者側を、『DV2』は、DVの加害者側を描いています。ケアワーカーとの会話の中で被害者の口からは生々しいDVの出来事が、次々語られていく。それが、何十人も入れ替わりで進むんです。ワイズマンは撮影した素材をバラバラに編集するので、時間軸がない。だからそれが誰なのか、どこなのかもはっきりわからないまま進行する。そういう意味では、普通のドキュメンタリー映画に比べると不親切なわけですよね。メッセージ性がわからないように作られているから、観客がどう観るかがすべて。初めは何がなんだかわからないなと思うんだけど、撮影されている被害者の人数も多いし、観ていくうちに、DVの実相が見えてくる。自分の傷を赤裸々に話す表情や喋り方、何から何まで本当の出来事で、観ていて本当につらい。映画が進行するとわかるのですが、別の境遇の人たちが語っているのに、実はDVの内容は似ているんですね。やっぱり人間って、ある条件を与えられるとDVしてしまうし、ある条件下だと、DVされても反抗できなくなってしまうことがよくわかる。たとえば、近年は多様性がすごく重要なキーワードだけど、多様性の中にも何か共通するものが人間にはある。人間が持つ弱さとか痛ましさみたいなものを感じられる、本当にヘビーできつい内容を扱う映画ですね。
『DVドメスティック・バイオレンス』
2001年/アメリカ/監督:フレデリック・ワイズマン/コミュニティシネマセンター
アメリカのフロリダ州にある家庭内暴力被害者保護施設が舞台となった本作。なぜ家族がお互いを傷つけ、暴力を許してしまうのか...。
この作品は実は連作で、『DV』は、DVの被害者側を、『DV2』は、DVの加害者側を描いています。ケアワーカーとの会話の中で被害者の口からは生々しいDVの出来事が、次々語られていく。それが、何十人も入れ替わりで進むんです。ワイズマンは撮影した素材をバラバラに編集するので、時間軸がない。だからそれが誰なのか、どこなのかもはっきりわからないまま進行する。そういう意味では、普通のドキュメンタリー映画に比べると不親切なわけですよね。メッセージ性がわからないように作られているから、観客がどう観るかがすべて。初めは何がなんだかわからないなと思うんだけど、撮影されている被害者の人数も多いし、観ていくうちに、DVの実相が見えてくる。自分の傷を赤裸々に話す表情や喋り方、何から何まで本当の出来事で、観ていて本当につらい。映画が進行するとわかるのですが、別の境遇の人たちが語っているのに、実はDVの内容は似ているんですね。やっぱり人間って、ある条件を与えられるとDVしてしまうし、ある条件下だと、DVされても反抗できなくなってしまうことがよくわかる。たとえば、近年は多様性がすごく重要なキーワードだけど、多様性の中にも何か共通するものが人間にはある。人間が持つ弱さとか痛ましさみたいなものを感じられる、本当にヘビーできつい内容を扱う映画ですね。
『DVドメスティック・バイオレンス』
2001年/アメリカ/監督:フレデリック・ワイズマン/コミュニティシネマセンター
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