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さまざまな角度から食を自分らしく実践・表現する6組のフォトドキュメント
古山憲正・美左紀
見るものの解像度をあげて暮らしていきたい
都心の騒音から自分自身を救い出し、ゼロに回帰する場所がある。山梨県北杜市にある0siteでは、地域で採れた食材を使った食のワークショップや、草木を使った染色ワークショップ、山に囲まれた土地を生かしたキャンプなどが楽しめる。そんな0siteを作った古山憲正さん(以下:憲正さん)は現在、パートナーの古山美左紀さん(以下:美左紀さん)と、息子の民さんと3人で暮らしている。憲正さんは、「自分自身が心地良いと思える場所を時間をかけて作っている」と話してくれました
ー憲正さんは0siteを立ち上げるまではどのような生活をしていたんですか?

 (憲正さん)以前、日本の社会に不満や違和感を持っていたんです。お金のために苦しみながら働いて、お金を稼いでも幸せを感じられない。そんな社会から逃げたいという思いで、海外を旅していました。その中で、デンマーク、イスラエル、イギリスにある大家族のようなコミュニティーの暮らし方を目の当たりにしたときに、当時の僕は心地よさを感じたんです。

ー資本主義が根づいた日本の働き方に違和感を持っていたのですね。いろんなコミュニティーを回る中で、印象に残っているのはどこですか?

 (憲正さん)一番影響を受けたのは、イスラエルにあるキブツというコミュニティー。キブツは、イスラエル各地で町や村と肩を並べながら、独自の社会や生活を築いている共同体で、イスラエル国からも認められているんです。キブツは世界で最も成功した共同体と称され、世界からも注目を浴びていて、毎年世界中からキブツ生活(労働をすることで、衣食住が与えられるというキブツのシステム)を体験するボランティアが来村しているそうです。

ー憲正さんが感じたキブツの魅力はなんですか?

 (憲正さん)キブツには特殊な人が集まっているわけではなく、多様な人がそれぞれの役割を持って生活しています。それぞれが平等に、衣食住が保障されながら暮らしている部分がすごくいいなと思いましたね。僕は7、8か月ぐらいしかいなかったので、キブツのすべてを理解してはいないけど、ずっと日本の資本主義社会で生きてきた僕にとっては、全然違う考え方や暮らし方がうらやましく映りました。
 
程よく人と関わり、のびのびと田舎暮らしをする方が自分に合ってる
ーその後もいくつかのコミュニティーを回った憲正さん。自分自身が求めている理想の暮らしとはどのようなものだったのでしょうか。

 (憲正さん)それぞれの国にいるときは、「こんな生活がしたいな」なんて考えていました。まずはみんなが集まれる場所を作ろうと思い0siteを始めたのですが、やっぱり大人数で暮らしていくことって難しくて。分かり合えなかったり、許し合えなかったりすることが出てきて、結局人との距離が苦しくなってしまう。だから今では、家族の時間を大切にしながら、程よく人と関わり、のびのびと田舎暮らしをする方が自分には合っているって感じています。
意味が大事ではなく、とにかく心地がいいんです
ー都心で暮らしていると、一日一日が忙しく過ぎていく感覚ですが、二人が北杜市で自然に身を委ねて暮らしているのはどうしてですか?

 (美左紀さん)現在、ワークショップを開催し、食や自然と向き合う時間を提供するなどをしていますが、ここで何かをする「意味」が大事なわけではなく、とにかく心地がいいんです。
 東京に住んでいたときは、何かを作るために必死に材料やお金を集める流れだったけど、こっちでは手元に集まってきたもので、「じゃあ何を作ろうか」っていう流れなんです。そうすると、自然とその時期に必要なものを身近な素材で作ることができる。そういう気張らずとも進んで、循環していく感じがすごく気持ちいいんです。

ー実際にどんなワークショップをしているのでしょう?

 (美左紀さん)0siteのワークショップでは、春夏秋冬それぞれに実る食材や草木を使用してそのときに使えるもの、次の季節に使うものなどを作ることができます。たとえば、春には野草や藤の花で染物をし、着なくなった衣服を新たな形としてアップサイクルする。初夏には梅を収穫し、梅シロップや梅酒を作る。秋になり柿の木に実がなれば、干し柿や柿酢を作り、冬には収穫した野菜を土の中に埋め保存する。そんな季節の中で生きるワークショップをしています。
 
都心ではただの背景だった自然にピントを向けると、小さな変化に気づく
ー地方で暮らすことに対して「退屈なんじゃないか」という意見もあると思いますが、実際に暮らしてみてどう感じますか?

 (憲正さん)確かに田舎暮らしって退屈だと思われることが多いですよね。僕自身も飽きがくるのは嫌なので、畑で採れた野菜をどう調理しようかと日々考えて、新しい料理を開発しています。そうすると常にやりたいことや挑戦したいことが増えていく。だけど仕事や家族で過ごす時間もとりたいから、できないことも多いのが現状です。そうなったら、来年の春にやろうって素直に思えるのは楽しいです。
 (美左紀さん)東京にいるときは目の前にある仕事や人ばかりを見ていて、季節や自然の移り変わりを見ても、ただの背景としてしか映らなかったんです。都心での生活が楽しい時期でもあったし、地方にある実家に帰ってくる
と、刺激がない、つまらない、って以前は感じていました。だけど、今はピントを前までは背景だった自然に向けることで、小さな変化に気づくことができて、その中でどう暮らしていくかがよりはっきりしてきたんです。

ー都心での暮らしは目先のことばかりに集中して、いつの間にか季節が変わっていたということも確かにありますね。私たちが見ているピントを少しでも自然に合わせることができたら、私たちのベースとなる食と暮らしについて改めて考えるきっかけになりそうです。

 (美左紀さん)そうなんです。こっちに来てからは、穏やかな流れの自然に意識を向けているので、頭の中も穏やかで、瞑想しているわけじゃないのに、ずっと瞑想している気分。自分ではなく、周りに集中できているおかげで、すごく心が安定してきました。
都会も田舎での暮らしも両方が自分たちにとっての大切な空間
ーそう思うと地方での暮らしや自然との共存が自分のメンタルヘルスに大きな影響を与えているんだなと感じます。

 (憲正さん)ただ、決して都心との関係を絶ちたいと考えているわけではないんです。心地のいい場所を作るうえで、友だちと遊ぶ時間も、僕たちにとっては大事な要素。東京から約2時間半で来れる北杜市という立地が、心地のいい空間と、新たな出会いや価値観をつなぐ橋渡しとなってくれている。
 (美左紀さん)東京にいると、街を歩いているだけで多くの情報が入ってくるけど、こっちに住んで、自然のリズムの中で生きていると、社会との距離はやっぱり遠くなると感じます。だけど必要だと感じたときに、すぐに東京へ2時間ほどで行けるアクセスの良さがこの土地のいいところですね。
自然な流れに身を委ね、より解像度を上げていく
ーこの土地に移住し、0siteを運営し、子どもを授かったお二人ですが、今後の二人のビジョンについて教えてください。

 (憲正さん)Ositeとしては、この先どんな場所にしていきたいかはまだよく分かっていない部分もあるんです。それは0site自体が僕の生活の延長線上で続けてきた感覚があるからで。地主さんとの関係もあるので、ゆっくりとですが、0siteらしい快適な空間を作っていきたいですね。そして僕も美左紀も食に対する興味が強いので、畑で育てた野菜や、山で採れたきのこを使って、どんなものができるのかを試しながら研究していきたいです。スーパーで出来上がったものを買うよりも、ここで採れた食材で料理したほうが僕としては違和感なく口にできるので。
 (美左紀さん)私はピントを合わせた先の解像度をより上げていきたいです。季節が巡っていくたびに知っている植物が増えていく。その植物は何に使えるのか、どうやったら食べられるのか、そういった知識を増やしていくことが、この土地と私自身の解像度を上げることだと思っています。
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