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さまざまな角度から食を自分らしく実践・表現する6組のフォトドキュメント
尾辻あやの
味さえ外していなければ、 A級もB級も ないんじゃないかな
世田谷駅と松陰神社前駅のちょうど真ん中あたり、かつてはおすし屋さんだった店を改装し運営しているお店があります。木枠の引き戸にのれん。昔ながらのたたずまいの建物の上を見上げるとイエローページセタガヤと書かれたネオン管が取りつけられている。昼は八百屋さん、夜は居酒屋さんの二つの顔を持ち、地域に根づいた店として、また農家とのつながりを大切にした八百屋さんとして、数多くのファンがいます。ファウンダーの一人、尾辻あやのさん(以下、尾辻さん)の話には、今まで知らなかった農家や八百屋さんの視点に立った環境問題や、フードロスへの向き合い方のヒントが溢れていました。
電話帳のイエローページのように人と人をつなげてみたい

ー尾辻さんは以前から、八百屋さんがやりたかったんですよね。飲み屋さんをやりたいというパートナーと共に経営されているそうですが、八百屋さんをやるという構想はどこから出てきたんですか?

 前職のときに、私はコミュニティースペースの事業に携わっていたんです。ある日、仕事中に路上で八百屋さんをやっている人を見かけました。売っているものも話もおもしろかったので通うようになると、その人に私の会社でも八百屋さんをしてほしいと思うようになり、会社の入り口で野菜を売ってもらったんです。そうしたら、今までにないほどいろんな人が話しかけてきて。コミュニティースペースってせっかく作ってもなかなか人が来てくれないという課題がよくあるのですが、八百屋さんってだけでこんなに入りやすくなるんだと驚きました。人が集まる機能としての八百屋さんという形がおもしろくて、私もやってみたいなと思ったんですよね。

ーもともとは人が気軽に集まれるコミュニティースペースを作りたいという気持ちがあったのですね。イエローページセタガヤという店名にも何か意味があるのでしょうか?

 私たちが小学生くらいの頃までは家に電話帳があったんですよ。電話帳のことをイエローページとも呼ぶのですが、人と人をつなげて、今まで知らなかったものに出会えるという意味で、私たちが目指しているお店の在り方と近いなと思い選びました。
 
味さえ外していなければ、A級もB級もないなって思うんです
ーイエローページセタガヤで扱う野菜はどんな基準で選んでいるのですか?

 八百屋さんの開業のために、いろんな人に農家さんを紹介してほしいと相談しました。その中で最初に出会ったのが山梨県の北杜市の農家の方々だったんです。北杜市って有機栽培が盛んなエリアで、実際食べてみたらすごくおいしかったので、うちで取り扱いたいと思いました。しかし、八百屋さんは単価が安い野菜をたくさん売って利益を出す仕組みが中心の商売。この小さなスペースでは大量に売ることはできないので、1個ずつの利幅が高い野菜を売らなければいけないので、商売的な面からも有機野菜にたどり着きました。

ー一般的なスーパーで見かけるよりも、サイズや形がバラバラな野菜が並んでいますね。意識的にB級品なども取り入れているのですか?

 いや、そんなことはなくて、基本的にはA級品を売りたいと思っています。ものづくりをしていたら、出来がいいものを売りたいし、単価が高いものを売りたいのは当たり前。農家さんが「これが一番いい出来だ!」と思っているものが、一番売れるのがいい商売の形だと思うんですよね。ただ、現状の日本でB級品と呼ばれるものって、味ではなくて形や大きさで判断されることが多い。そこに関して、うちのお店は規格がないんです。実際、お店に出しても売れますし、私たちとしては味さえ外していなければ、A級もB級も関係ないなって思うんです。とはいえ、農家さんの方から「B級品です。これも扱ってくれませんか」と言われたらお店に置くことはありますが、自分たちからB級品を安く買うようなことはありません。
 
農家さんにも喜ばれた、野菜の詰め放題
ー販売方法は詰め放題なんですよね。有機野菜の詰め放題って、あまり聞いたことがないのですが、なぜ詰め放題で売っているのですか? 

 宣伝のために有機野菜を詰め放題にするスタイルを試してみたら、農家さんにすごく喜ばれたんですよね。大きさで売り方を決めた場合、サイズが違うと同じ値段では出せないので、農家さんが出荷前に選別しないといけない。だけど、詰め放題だとグラム数で販売できるので、私たちも楽だし、作業の手間がなくなります。

ー詰め放題はお得感があってお客さんにも評判がよいそうですね。 一方で、有機野菜は高いというイメージがまだまだ根強いのも事実と聞きました。

 お店に来てくれたお客さんから、「もっと安くないと売れないよ」なんて声をいただくこともありますが、なんで野菜は安くないといけないんだろう?と疑問に思いました。
 有機野菜が高いのはわかっています。もちろん一般的なスーパーで売っているような野菜も必要だし、全部値段が高いと困りますよね。だけど、野菜を買う基準が値段だけになってしまうと、安くすることが当たり前に思われてしまう気がして…。洋服のブランドが安いのも高いのもあるように、野菜だっていろんな選択肢があっていいのになって。野菜に対して値下げばかりを求めてしまうのは、農家さんの労働をきちんと想像できていないんじゃないかと思うんですよね。

 
畑に残った野菜はロスじゃない
ー出荷できなかった野菜がフードロスになっているのでは?といった話をよく聞きます。それについて、尾辻さんはどうお考えですか?

 未収穫の野菜が畑に残っていると、もったいないってよく言われます。でも、農家さんは、残った野菜はだいたい畑にすき込む(埋める)んですよ。野菜が土に還るだけだから、環境的には最もエコ。それをわざわざもったいないから収穫して、B級品として売ろうとするのは、むしろ農家さんに負荷がかかるだけです。ほとんどの人は善意でもったいない野菜を売ったほうがいいと考えると思うのですが、実際には違うこともあるんですよね。有機栽培の農家さんに関しては、すでにフードロスへの対応やSDGsへの取り組みは十分がんばっていると思うので、何か違う方法でフードロスの問題に取り組めたらいいなと思います。
ー出荷できなかった野菜がフードロスになっているのでは?といった話をよく聞きます。それについて、尾辻さんはどうお考えですか?
 
未収穫の野菜が畑に残っていると、もったいないってよく言われます。でも、農家さんは、残った野菜はだいたい畑にすき込む(埋める)んですよ。野菜が土に還るだけだから、環境的には最もエコ。それをわざわざもったいないから収穫して、B級品として売ろうとするのは、むしろ農家さんに負荷がかかるだけです。ほとんどの人は善意でもったいない野菜を売ったほうがいいと考えると思うのですが、実際には違うこともあるんですよね。有機栽培の農家さんに関しては、すでにフードロスへの対応やSDGsへの取り組みは十分がんばっていると思うので、何か違う方法でフードロスの問題に取り組めたらいいなと思います。

ー農家さん、八百屋さんのリアルな動き方と顧客とのズレは、環境問題への取り組み方にも現れることがあるのですね。イエローページセタガヤは無理のない自然な方法で、それらの問題の解決への一助を担っていると感じました。

 人を説得して何かを変えるのって難しいし、じっくりと一人ひとりに説得していたらとてつもない時間がかかる。お客さんがうちの野菜を買うことで、自然と環境や人にいいことができるような仕組みを作りたいなって思っています。だから、うちのお店では、お客さんに野菜の作り方の説明や農家さんが置かれている状況などの話をすることはないんです。もちろん聞かれたら答えますよ。でも、おいしい野菜に自分で出会って、試して、好きになって、気づいたら環境や農家さんを支える活動につながっている。そんな流れをこのお店で生み出せたらいいなと思っています。
イエローページセタガヤ
[住所]東京都世田谷区世田谷4-6-1
[営業時間]10:00〜16:00(八百屋さん)、17:00〜24:00(居酒屋)
[定休日]月曜・日曜(八百屋さん)、木曜(居酒屋さん)
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