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日本にはたくさんの名作がある。日本を代表する作家、監督の作品について、熱狂的なファンの方々にベスト3をあげてもらいました。いつの時代も愛される、日本の名作に出会おう
伊波真人が選ぶ [古川日出男作品BEST3]

著者 prof.
古川日出男
1966年生まれ。1998年『13』で小説家としてデビュー。2002年『アラビアの夜の種族』で第55回日本推理作家協会賞・第23回日本SF大賞を受賞。「朗読ギグ」と呼ばれる自作の音読イベントや劇作家としても活動中。
Recommender.
伊波真人(37)歌人
雑誌、新聞を中心に短歌、エッセイ、コラムなどを寄稿。ポップスの作詞、小説の執筆などもおこなう。関心領域は、音楽、映画、漫画などのカルチャー全般。著書に歌集『ナイトフライト』などがある。
古川日出男
1966年生まれ。1998年『13』で小説家としてデビュー。2002年『アラビアの夜の種族』で第55回日本推理作家協会賞・第23回日本SF大賞を受賞。「朗読ギグ」と呼ばれる自作の音読イベントや劇作家としても活動中。
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伊波真人(37)歌人
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日常の大切さを気づかせてくれる作品

[ BEST.1 ]『gift』古川日出男 著/集英社
古川日出男さんの本の中で、最初に読んだ思い出の作品。いつもカバンの中に入れて持ち歩いています。日常に潜む非日常をおもしろく描いていて。小説って、カチっとしなきゃいけないイメージがあったんですけど、これはそういう固定概念をぶっ壊してくれたんですよ。校舎の屋上やお台場、駐車場など身近な場所をテーマにしていて非常に読みやすい。非日常の描き方もさらっとしていて、貯水タンクで金魚を飼っていたり、お台場が独立国家になっていたり。日常が非日常に飛躍するアイデアと発想が心地良く、ページをめくるたびにドキドキするんです。
短編の中の『小さな光の場所』という、ただ山登りをするだけの話があるんですよ。「イエイーー山登りって混じりっけなしにハッピーだな」って文章があって、キャリアのある作家が文でイエイとか言っちゃう感じがもうたまらないですね。歌人として、短歌を作っていると小さくまとめてしまいそうになることがよくあるのですが、この一文を読むたびに自由な発想でいいんだと背中を押してもらえますね。生きていると日常が退屈だと思う瞬間に出会うかもしれない。でもそんな場所こそが非日常の舞台の入り口で、思いもよらない出来事に出会えるかもしれないですよ。
見慣れた景色も視点を変えると新たな発見がある

[ BEST.2 ]『サマーバケーションEP』古川日出男 著/KADOKAWA
神田川の源流って、実は井の頭公園の中にある湧き水なんですよ。この作品はその井の頭公園から東京湾まで、神田川に沿ってただ歩くという話なんですけど、主人公の境遇が特殊で。20歳になるまで施設に入っていて、外に出たことがないんです。なので、僕たちが普段見慣れている東京の景色も、主人公にとっては初めて体感するもの。ただ神田川を歩くだけの話が、この主人公のフィルターを通すことで、普通の感覚では感じることのできない新鮮な追体験を味わうことができる。作中に出てくるアイスも、ガリガリ君とか実名で出てきて。フィクションなんだけど、日常にあるカタルシスのようなグッとくる部分をくすぐられる感じが巧みなんですよ。
この作品を読んだ大学時代の夏休み。僕も神田川の源流から東京湾まで歩いたんですよ。杉並の住宅街から新宿のビル街、秋葉原の電気街から浅草橋の下町を抜け、月島のベイエリアへ。実際に歩くと、こんなにも個性のある街が繋がっているのかと驚きました。世界中どこを探しても、ここまで個性豊かな街が連なっているのは東京くらいなんじゃないかって。みなさんにもぜひ、主人公の視点を感じながら、井の頭公園から東京湾まで歩いてみて欲しい。絶対にいい思い出になるはずですよ。
人の数だけ物事の見方がある

[ BEST.3 ]『ハル、ハル、ハル』古川日出男 著/河出書房新社
僕は歌人として活動しているので言葉を扱っているのですが、その中で文体について深く考えるきっかけになった作品。親に捨てられた13歳の少年と、16歳の家出少女、41歳のタクシードライバーが主人公の物語。3人で千葉にある犬吠埼を目指すというストーリーなのですが、3人とも名前がハルっていうんですよ。タイトルもそこからとって、『ハル、ハル、ハル』。名前以外にも共通点があって、3人とも家庭に問題を抱えているんです。みんな、家族とうまくいっていない。けど、3人で集まると本当の家族のように感じられる。この3人の物語が、会話を軸にしてどんどん視点が切り替わっていくのが楽しいですね。
小説って内容と文体の二つの要素で構成されていて、この作品は特に文体が印象的。同じ場所にいるキャラクターの視点を変えることで、見え方や捉え方の違いを表現していて。小説なんだけど、音楽を聴いているような疾走感とリズムがある。僕は2時間くらいで一気に読んじゃったのですが、どんな話でも視点と文体のリズムでこんなにもおもしろくなるんだと衝撃を受けました。ぜひ音楽的な文体の気持ちよさに身を委ねてほしいし、物事の見方が人の数だけ存在することに気づくきっかけになる作品だと思いますね。
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