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日本にはたくさんの名作がある。日本を代表する作家、監督の作品について、熱狂的なファンの方々にベスト3をあげてもらいました。いつの時代も愛される、日本の名作に出会おう
金井茉利絵が選ぶ [山田詠美作品BEST3]
著者 prof.
山田詠美


1959年東京都生まれ。日本の作家。『ベッドタイムアイズ』で衝撃的なデビューを飾る。『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞受賞、さらに『風葬の教室』で平林たい子文学賞を受賞するなど、その後も多数の賞を受賞。現代を代表する人気作家。

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金井茉利絵(36)AM編集長、株式会社Logue取締役

青山学院大学日本文学科卒業。農林中央金庫、編プロを経て2011年にlivedoorに入社。 恋愛WEBメディア「AM」の立ち上げから関わり、現在株式会社AMにて同メディア編集長。
山田さんの言葉が好きすぎてノートに書き写してました
[ BEST.1 ]『4U』山田詠美 著/幻冬舎
 「外見を裏切らない内面を持った男なんて、後ろから読むミステリーよりもつまらない」。女性がギャップに惹かれることについて、こんなふうに言語化できるのかと驚きました。ギャップって、簡単なものから、複雑なものまでさまざま。読むだけで、自分の中のバリエーションが膨大に増えるし、確かに私もそういう人を好きになる、わかる〜!って腑に落ちるんです。男の人への着眼点が独特で、無意識に惹かれていた部分の解像度が高まり、より鮮明になっていく。こんなふうに人を愛せたら素敵だなって、心から思うんです。
 桐子がなぜ、マルのことを好きなのか。あらゆる角度から描かれているのがすごい。胸の厚みで自分の口をふさぐ彼を守ってあげたいとか、料理を作ってずっと待ち続ける彼女。相手を拙いものだと思って、かわいいと感じる。体だけではダメ、でも、何が必要なのか分からないという表現に、山田さんの当時の思いが詰まっている気がします。恋愛とはきれいな色も汚い色もついたものなんだなって。文字のエネルギーがすごすぎて、一行一行が血のよう。昔、好きすぎてノートに作品の言葉を書き写してましたからね(笑)。こんなにかっこいい恋愛はできないけど、女としても人としても、山田さんのような美意識を持って生きていきたいんです。
不倫を悪として書いていないんです
[ BEST.2 ]『A2Z』山田詠美 著/講談社

 主人公の夏美は35歳の編集者。今の私とめっちゃ一緒じゃん!と思って、私も35歳で読み直したんです。初めて手に取った大学生のときは、夫の一浩がかっこいいと思っていたんですよ。賢くておしゃれだし、会話にエッジがきいていて大人の男。魅力的な男性って、敏捷な動きするよなーって。それが35歳になって読むと、恋愛相手である成生の方にときめいたんです。年を重ねて、男性のいたいけな部分をいいと思うようになったからですね。
 夏美と成生が、私たちがやっていることは食事、お酒、会話、セックスだけで、日常の営みが贈り物だ、と恋の最高の部分を楽しむ場面。成生が少しだけ旦那さんを悪く言ったら、「一浩はそんな男じゃないよ」とはじめて夫の名前を言ってしまうんです。そこが最高に好き。二人だけの世界へ第三者の影が入り、壊れていく。恋、愛、結婚、それぞれの違いや特徴を表していて、素敵だなって。それに、夏美は成生に恋に落ちたあとも、酔って一浩とベッドをともにするんです。一浩にも恋人がいるのですが、よくある不倫の話にはない絶妙なシーンで、大人だな〜って。大前提として、不倫を悪として書いていないんです。一途であることが良い女とされているけど、それだけじゃない。私の恋愛観に、すごく影響を与えてくれました。
他人のことを考えるもう一段階上に近づける
[ BEST.3 ]『つみびと』山田詠美 著/中央公論新社

 事件を起こした人にはどんな背景があるのだろうか。世の中で一度悪いことをすると、完全に悪人扱いされますよね。果たして本当にそうなのか、考える必要があるよなって。自分がしんどいときに、いつもと違う判断をして全然違う場所に行ってしまうことってあるじゃないですか。みんな紙一重。この作品を読むと、それが体験的に学べ、他人のことを考えることの、もう一段階上の状態に近づけるんです。
 主人公の娘である蓮音は、逃げ方を知らなかったが故に、仲間や知り合った男からどうにか必要なエキスを得ていた。だけど、持ちこたえられなかった。安易な断罪や同情ではない、多面的な人間の心理や行動の動機が、山田さんの言葉で丁寧に表現されているんです。人に対して選択肢を考えることは正解なんだって、一つの可能性として読むことができた。私自身、もう少し他人の背景を見たいと思っていたところだったんですよ。例えば、Twitterとかで叩かれている人に対してもそう。つぶやくまでの背景にいろいろあるわけじゃないですか。何か理由があったり、実はそんなこと思っていなかったり。この人はこういうキャラだからって、決めつけることに反発心があるんです。フィクションの力を借りて、少しでも自分の考えの外側にいくことを積み上げたいなと思います。
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