GRAFFITI CONTENTS
日本にはたくさんの名作がある。日本を代表する作家、監督の作品について、熱狂的なファンの方々にベスト3をあげてもらいました。いつの時代も愛される、日本の名作に出会おう
金澤朋子が選ぶ [ 江國香織作品BEST3]
著者 prof.
江國香織


1964年、東京生まれ。日本の小説家、児童文学作家。1987年『草之丞の話』で小さな童話大賞を受賞。1992年『きらきらひかる』で紫式部文学賞、2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年。詩作のほか、海外の絵本の翻訳など幅広く活動している。

Recommender.
金澤朋子(26)アイドル

1995年生まれ。ハロー!プロジェクトの女性アイドルグループJuice=Juiceのメンバーとしてデビュー。2019年より、2代目リーダーとしても活躍。ニックネームはかなとも。趣味は、読書・映画鑑賞・ラジオを聴くこと。
華子との出会いに衝撃を受けた一冊
[ BEST.1 ]『落下する夕方』江國香織 著/角川書店

 中学生の頃、友人に「朋子、江國さん好きそうだね」と勧められて、そこからどっぷり江國作品にハマったんです。『落下する夕方』は、主人公の梨果が8年間同棲した彼に突然別れを告げられるところから始まるお話。その後、彼の新しい彼女・華子が梨果の家に転がりこみ、同棲を始めるという不思議な設定。江國さんの描く恋愛や日常は、実際の世の中にはなさそうな、でもあるかもしれないな、と思う絶妙なラインなんです。読む前から、江國さんワールド全開の設定にワクワクしていました。
 読み始めて、華子の生き方、人柄に衝撃を受けました。華子は破天荒であり、天真爛漫であり、自由奔放。彼女の魅力に、男性も女性も翻弄されていくんです。私も彼女に出会って、影響されたところがたくさんあります。私はもともとハロー!プロジェクトやアイドルが大好きだったので、かわいくてフレッシュなアイドル像を追い求めていたんです。だけど、なんだか自分らしくないような気がして。もっとコンプレックスだった歌声を強調したり、大人の私にしかできないかっこいい表現をしたり、自由に自分らしい表現を磨いていきたいと思ったんです。読書は、現実世界では出会えないような人物と出会えることが醍醐味。そこで、自分の新しい感情や惹かれる人物を見つけることができるんです。華子は最後、自ら命を絶ってしまうんですけどね…。江國さんは、核心をつかないような言動や会話の表現が多い。だから、華子の考えていたことは誰もわからないまま。でも、そのおかげで私たち読者が気の済むまで、登場人物の気持ちや話に思いを馳せることができるんだと思います。
母親の壮絶な願いから始まった借りぐらし生活
[ BEST.2 ]『神様のボート』江國香織 著/新潮社

 必ず戻るといって消えた愛するパパを追いかける母親と、その娘のお話。母親の葉子は、消えたパパに対しての気持ちがあまりにも強すぎる。葉子は、パパとの恋を「骨ごと溶けるような恋」と表現しているんです。「骨が溶ける」という江國さんのほかにはない美しい表現が、読み終わったあとに心に残るんです。葉子の人生で起こった数年間の恋が、どれほどのものだったのか、とても伝わります。おそらく私は経験することがないんじゃないかと思うほど、ヘビーな恋ですね。
 そんな母娘は、いつかまたパパに出会えるように借りぐらしのような形で、住む環境を何度も変えていくんです。娘の草子は母親に振り回されてばかり。母親の生き方を受け入れて、学校を転々とするのは、つらいものがあると思います。だけど、切っても切れない家族という縁を大切にしている。自分のためではなく、人のために生きる草子の姿勢に、感銘を受けました。Juice=Juiceのリーダーという立場になったとき、グループのために何も出来ていないと悩んだことがあって。でも、草子の姿を見て、もっとグループに向き合っていこうという気持ちになれたんです。話が進むにつれて、母親が自らの生き方にどっぷりハマっていく。深い海の底にどんどん沈んでいくようで、ゾっとするんです。住む各場所で、素敵な出会いも心温まるエピソードもあるのに、その生活を躊躇なく捨てていく。そんな母親の一生は、正解の生き方ではないのかもしれない。でも、自分の強い感情に従ってやりたいことをやった方がいいという、我慢との切り離し方を学んだ気がします。
誰しもが抱える不安や孤独を赤裸々に描いた大人の恋愛小説
[ BEST.3 ]『ウエハースの椅子』江國香織 著/角川春樹事務所

 学生時代の多感な時期に、生死について考えるきっかけになった一冊です。画家である38歳の私が主人公。彼女には、長く付き合っている彼がいる。でも彼には家庭があり、結ばれることはないんです。主人公は、誰しもに訪れる「死」というイメージを持ちながら、日々生きている。私が学生の頃は、周りの誰かが亡くなってしまうということに現実味がなくて、ぼんやりとしか考えることができなかったんです。死ぬことはシンプルに怖いことっていう認識くらいで。だけど、主人公は死を安らかなものとして捉えているんです。読み進めていく内に、私も死に対して安心感すら覚えてしまう。衝撃的な作品でした。
 江國さんの女性特有の繊細な表現も大好きです。特に、タイトルにもなっている『ウエハースの椅子』という言葉は、ウエハース好きの主人公が幸福のイメージとして思い描いているもの。かわいらしくて、おいしそうで、ハッピーな言葉。だけど、もろくて誰も座れない危なっかしい椅子、という比喩がこの話のイメージにピッタリ。主人公が抱える孤独や不安は、みんなが抱えているものと同じ。江國さんが、いろんな人の弱さを切り取って、深堀したものだと思うんです。友だちや家族に囲まれていても、結局は一人。私も、メンバーと一緒にステージに立っているとき、ずっと一緒にいられるわけじゃないんだよな…って、寂しさを感じる瞬間がある。江國さんの本は、そんな孤独や不安が和らぐわけじゃなくて、むしろより不安にさせられる。だけど、みんなそうなんだと、弱さが人の強さを担う部分として、前向きに捉えることができるんです。
RELATED CONTENTS
FOLLOW US ON