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日本にはたくさんの名作がある。日本を代表する作家、監督の作品について、熱狂的なファンの方々にベスト3をあげてもらいました。いつの時代も愛される、日本の名作に出会おう
荒川良々が選ぶ [ 伊丹十三作品BEST3]
著者 prof.
伊丹十三


1933年京都市生まれ。日本の映画監督。『お葬式』で監督デビュー。同作品で日本アカデミー賞、キネマ旬報ベスト1など、数多くの賞を受賞。監督としては51歳と遅かったが、それまで商業デザイナー、エッセイスト、映画俳優、CMディレクターなど、マルチな才能を発揮していた。享年64歳。

Recommender.
荒川良々(47)俳優

佐賀県出身。映画『全然大丈夫』で初主演。『予告犯』、『ハード・コア』、『決算!忠臣蔵』など、多くの映画作品に出演。CM出演も多数。近年の出演作は『俺の家の話』。常に話題の作品に出演する唯一無二の個性派俳優。
誰と何を食べるかを考えている時間が一番楽しいですよね
[ BEST.1 ]『タンポポ』1985年 日本/出演:山崎努ほか/東宝
 生きることは食べること。人間が生きていくための根本的なことを、あらゆる食の切り口で描いていて。おいしいラーメンを求める姿を観ているだけでお腹が空きます。それでいて、食べることのいやらしさも垣間見える。女と卵を口移しするシーンなんかも、エロチックですごいなって。僕も一度、井口昇さんの作品でやったことがあるんです。皆川猿時さんと(笑)。人間の性欲と食欲はつながっているんですかね。それに、このご時世になってから、なかなか人にも会えず、現場に出てくるお弁当くらいしか楽しみがなくなっちゃって…。そんな中、この作品を観たら、そりゃあラーメン食べたくなりますよね。
 本筋がありながら、横枝にそれていくストーリーがおもしろい。特に、チャーハンのエピソードが最高なんです。母親が死にそうになりながら家族のためにチャーハンを作って、父が食えー!って。漫画みたいな展開なんですけど、単純に楽しい。いろんな話があった最後、赤ん坊が母乳を飲んでいるシーンで終わるところに、あ〜やられたなって。人間が最初に口にする食べ物ですからね。あと、宮本信子さん演じるタンポポが本当にきれい。物語が進むにつれて美しくなるのも見どころですね。それに、役者さんがみんないい顔してるんです。みなさん本当にイキイキとお芝居をされてるなって。
 「食」って、何を食べようかなって考えている時間が一番楽しいですよね。食べたら終わっちゃうし。もっと言うと、何を食べるかよりも誰と食べるか。早く大好きな人たちと、ワイワイおいしいご飯が食べられるようになりたいですね。
小学生の頃に見た濡れ場のシーンが衝撃的でした
[ BEST.2 ]『お葬式』1984年 日本/出演:山崎努ほか/ATG

 小学生の頃、家族でテレビを観ていたら突然、外で立ちバックをしている映像が流れたんです。それがものすごく衝撃的で…。そのときの作品がこれ。家では下ネタとか濡れ場なんて、すぐにシーンとなっていましたからね。それに、僕も小学生のとき、母方の親戚が亡くなって、お葬式を実体験していたんです。だから、重なるものがあった。独特な空気感の中で、大人たちが忙しそうにしていたり、お酒を飲んでいたり。ほんとだ、これがお葬式なんだって。そのとき、生まれて初めて父親が泣いている姿を見たんです。そういうこともあって、記憶に残る作品なんですよね。
 奥さんの雨宮千鶴子は、旦那の浮気に気がついていると思うんです。でも、全部をわかったうえで、旦那を許している気がする。いろんな葛藤があっただろうけど、最後は菩薩のような表情をしていて、女の人は全部わかっているんだなって。それが、自分の母にも通じるところがあった。昔、財布を持っていかない父のことを、いつも母が迎えに行っていたんです。なんだか女性の賢さ、強さを痛感しましたね。それで言うと、きく江さんの最後の長セリフもいい。お葬式って、亡くなった人をしのぶ場所じゃないですか。タモリさんが赤塚不二夫さんの祝辞を読んだときとか、本当に相手のことを好きだったんだと感じますよね。きく江さんの淡々とした様子に、内側に秘めた悲しみをくみ取ることができて、グッとくる。そういう大袈裟に演出していないところも好きなんです。途中の8ミリフィルムの映像もそうですけど、昭和の良き時代の日常が垣間見えて、素敵だなって。
スーパーエンターテインメント毎日の買い物が楽しくなった
[ BEST.3 ]『スーパーの女』1996年 日本/出演:宮本信子ほか/東宝

 とにかく、毎日スーパーに行くことが楽しみになった作品。このご時世になって、自炊を今まで以上にするようになったんですけど、食材を買いに行く行為を、より魅力的に感じさせてくれるんです。まさか、自分がこんなにスーパーを好きになるとは思いませんでした(笑)。伊丹監督の小説とかエッセイにも共通することなんですけど、物語の題材が、一般の人の身の丈に合ったものが多い気がしていて。そこがかっこいいなって。背伸びをしていないからこそ、常に登場人物と同じ目線で観られるんですよね。
 伊丹監督の演出がすごく細かいのも魅力。脚本や衣装、メイクなどはもちろん、使うかどうかわからない小道具まで、テーブルの中に入れてあるらしくて。些細なことまで、いろんな可能性を考えて絵を作っているんですよ。何より、俳優さんたちが本当に楽しそうにお芝居をされている。二枚目の俳優さんがほとんど出てこないのもすごいですよね。それぞれに個性があって、表情や演技が豊か。柳沢慎吾さんとか、あき竹城さんとか、伊丹作品には珍しい方々も脇を固めている。伊東四朗さんが悪役をされているのも新しいなって。それに、エンターテインメントでありながら、ためにもなる映画なんです。商売が一つのテーマでもあり、どうしたら売れるか、お客様を満足させられるか、という情報的なポイントも多い。その一方で、スーパーの従業員たちが突然踊り出すようなミュージカルシーンがあって、観ていてずっとワクワクするんです。普段、スーパーに行かない人が観たら、きっと捉え方が変わってくると思うんですよね。
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