GRAFFITI CONTENTS
日本にはたくさんの名作がある。日本を代表する作家、監督の作品について、熱狂的なファンの方々にベスト3をあげてもらいました。いつの時代も愛される、日本の名作に出会おう
上白石萌音が選ぶ [ 伊坂幸太郎作品BEST3]
著者prof.
伊坂幸太郎


千葉県出身。2000年『オーデュボンの祈り』で、新潮ミステリー倶楽部賞を受賞し、デビュー。 2004年『アヒルと鴨のコインロッカー』で吉川英治文学新人賞受賞。 ユーモラスな文体と、随所に張り巡らされた伏線から導かれる、予想外のラストで多くのファンを魅了し続けている。


Recommender.
上白石萌音(23)女優

主な出演作として、映画『君の名は。』、ドラマ『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』など。舞台『ナイツ・テイル–騎士物語–』が公演中。歌手としても活動し、10月には両A面シングルをリリースする。

 
最終章で繋がったときの快感がたまらない
[ BEST.1 ] 『アイネクライネナハトムジーク』 伊坂幸太郎 著/幻冬舎
 ロマンチックで劇的な展開だけど、華やかすぎないところに伊坂さんらしさを感じます。伏線がたくさん張られていて、最終章で全部繋がったときの快感は、もう鳥肌と涙がわーっと出ちゃう(笑)。何回読んでも、最終章だけ読み返しても、最高なんです。これは、さまざまな出会いについての話。一つの出会いにもちゃんと意味があるんですよね。最初の一遍ができたきっかけも伊坂さんと、斉藤和義さんの出会いから。この出会いがもしかしてあの日の出来事に繋がっているかもって、ワクワクしちゃうストーリーです。
 特に会話文が秀逸で、頭の回転が早い人たちのやりとりのような、テンポのいい揚げ足の取り合いが楽しい。なかでも、お気に入りの人物は織田一真。しつこさとウザさが強いけど、要所要所でいいことを言うんですよ。生意気なのにカリスマ性で全部許されちゃうような人。それと、伊坂さんが描く奥さんは、いつも物語の良いスパイスになっていて好きなんです。織田の妻、由美もそう。、夫のお尻を叩いたり、ハッパを掛けたり。かと思えば、おもしろい発想で夫のことを救うんです。とても素敵な女性で、夫を深く愛して支える理想の奥さんだなって。いつか、伊坂作品の奥さんを演じるのがずっと夢なんです。伊坂さんが書く、あのおしゃれなセリフを言ってみたいですね。
 本棚に伊坂コーナーを設けているほど、大好きな作家さんなので、選書はすごく悩みました。伊坂作品に触れたことがない方に読んでほしいかな。落ち込んでるときとか、心をあたたかくしてくれると思う。毎日を楽しく感じさせてくれる作品です。
苦手なエッセイを書いてくださった伊坂さんに感謝
[ BEST.2 ]『仙台ぐらし』伊坂幸太郎 著/集英社

 伊坂さんのエッセイって貴重なんです。作り話半分ならと渋々書き始めたらしいのですが、結局ほとんどが実話になってしまったとおっしゃっていて。いざ読んでみると、嘘でしょ!こんなにうまくできた話あるの?って驚きました。本当か脚色かわからない。全部見せない駆け引きのうまさ、底知れなさを感じます。でも、日常的なお話はすごく共感できて。たくさんの物語を生んでいる方なのに、すごく庶民的な感覚をお持ちなんだって、ますます伊坂さんのことが好きになりました。ご自身が上品で奥ゆかしい方なんだろうな。小説を読んだあとに、作家さんのエッセイを読むと、物語に深みが出ますね。
 震災が起こり、世の中が大変なときに執筆していいのか悩んだそうなんです。そんなとき、友人から「今踊っているダンスを踊り続けなさい」とメールをもらったらしくて。今していることを続けることが大事だって言葉に、私もはっとしました。ひたむきにやってきたことをコツコツと続けて、それ以上を望むことはおこがましいという解釈が素敵。ああ、なんて謙虚で誠実な方なんだろうって。私も、その言葉をずっと心に留めています。現在のコロナ渦でも、エンタメは最優先事項ではないじゃないですか。だから、私に何ができるんだろうって考えたときに読み返しました。ただひたすらに、手元にあることを一生懸命にやることが大事なんだって再確認させてくれた。あとがきさえも苦手な方が、自分のことを書くのは大変だったと思います。覚えておきたい大切な言葉をたくさんいただいて、執筆してくださったことに感謝の気持ちでいっぱいです。
怖いけど憎めない生きる底力をもらえる作品
[ BEST.3 ]『グラスホッパー』伊坂幸太郎 著/角川書店
 「みんな人は死にたがってるんだ」という鯨のセリフがすごく印象的。殺し屋という現実離れした設定なのに、どこかに実在するのかもしれないと思うほど、生々しい描写が続くんです。なんで伊坂さんは殺し屋のことをここまで知ってるんだろう…って驚いてしまうくらい。それでいて、殺し屋たちにはそれぞれほっとけない魅力があって。リアルな恐怖シーンと人間模様が混在している世界観に、ページをめくる手が止まりません。
 自殺屋の鯨は、不思議な存在でした。危ういオーラと気品。自ら手は下しませんが、鯨と話すとみんな死にたくなってしまうんです。私に自殺願望があるわけではないのですが、もし鯨に会ってしまったらどうなってしまうんだろうって。読んでるときは、めちゃくちゃ影響を受けてしまって、毎晩悪夢を見ていました(笑)。作中に出てくる実在の場所を歩いていると、本当に彼らがいるのかも…と、うしろを振り返ってしまうほど。そんな恐ろしい世界の中でも、オアシスのように安心させてくれるのが劇団の子どもたち。純粋でかわいいと油断したら、ちょっと皮肉めいたところもあって。やっぱり伊坂さんだなって、心が緩みました。
 ダークな内容だからこそ、伊坂さんの気品が最大限に発揮されています。表面的には殺しを題材にしているけれど、裏を返せば、生きることについて描かれていて。殺伐とした世界や、さまざまな思いを持った殺し屋たちの死を通して、ただ生きているだけで、こんなにもすごいことなんだと思える。人間がもともと持っている、生きたいという底力を湧き立たせてくれるんです。
RELATED CONTENTS
FOLLOW US ON